羊の毛刈り

毛刈りの心がけ

羊が家畜にされ、より多くの毛がとれるように改良が進み、羊は(一部の例外はあるが )人間が毛を刈りとってやらなければ抜け変わることもなく伸ぴ続けるように変わってきた。
したがって年一回、春に羊飼育者の年間行事になっている毛刈りは行わなければいけない。
しかし、今では人間が利用するために毛刈りをするのではなく、抜け変わらないために毛刈りを行っている羊飼育者が日本では多いのではないだろうか。
羊毛は羊独特の生産物である。きれいに飼い、きれいに刈りとることによって、ゴミとして扱われていた羊毛が高価なものになる可能性をもっているわけである。
ただ毛を刈りとるのではなく、次に利用するものであることを意識する必要がある。

毛刈りをする前に

・毛刈り当日にエサは与えない。腹部が圧迫され暴れる原因となる。
・毛刈り前に羊のつめは切らない。羊が暴れる時、鋭くなったつめでケガをしやすくなる。
・羊と毛のために雨の日は避けるべきである。羊にとっては肺炎の原因になり、湿った毛では品質を下げてしまう。
・羊の毛についているワラやエサなどの爽雑物はこまめに取り除きたい。
・バリカンのコードは意外とじゃまである。上からコードをたらす工夫をしたい。
・毛刈りは年に一度だけ、羊の体を検査できる時である。メモ帳やマーカーを常備したい。
・毛刈りをする場所は板の上が最適である。板ならば脂で滑ることが少なく、毛刈り作業がやりやすい。
・羊体や毛が汚れないように周囲に気を配りたい。

手順とコツ

毛刈り順序は下の図にある通りである。この順序は人間、羊、毛にとっていちばん適したものだと思う。とくに人間の動きにむだが少なく、羊にとっては無理な体勢が少ない。毛にとっては一枚のフリースにしやすく、刈り終わっている部分の毛の上に羊や人間がのってしまうことがない。
羊が多く飼われている国ではすべてこの順序で毛刈りを行なっている。

1. 羊の右前肢は股の間に入れてしまう。
腹部にシワができない程度に寝かせる
陰部や乳首に注意。
2.羊を立ち上がらない程度に前へ起こす。
1. の状態のままだとバリカンが届きに
くく、後肢が曲がりやすい。
3.後肢が曲がりやすい姿勢なため、左手を
使って間接部を押し後肢を伸ばす。
4.首の皮は切りやすいため、羊のアゴの
下に手をやり、皮を伸ばす
ようにする。

5.羊を完全に仰向けにし、右膝で羊の腹
部を軽く押す。


6.左足の上に羊をのせてしまい、左手で
羊の頭部を押し、弓なりにする。
②③は背骨の向こう側を刈る。

7.左手を羊の下アゴにひっかけ、バリ
カンの進みぐあいに応じておこして
いく。
8.一回のバリカン動作で出来るだけ長
距離を刈るように心がける
こんなときどうする?
・皮を切ってしまう
これは羊にとって大問題である。また、見る人にとってもよい光景とは言えない。
毛を利用する人にとっても毛に皮がついていてはよい気持ちがするはずがないだろう。そうならないためには、皮を伸ばす必要がある。つねに左手は皮を伸ばすために働かなければならない。また羊を押さえる時は、バリカンを進める部位にシワができない体勢をつくらなければいけない。バリカンを進ませる時は必要以上の力を入れて羊の体に押しつけてはいけなし、けっして毛を持って刈るべきではない。

・二度刈りになってしまう
一年かけて羊が生やしてきた毛を途中で切ってしまうことはたいへんな損失である。
価値を下げないために二度刈りはなくしたい。
皮からバリカンの下刃を離さないことが二度刈りにならないための重要なポイントである。下刃を離さないでバリカンを進めるには、羊の体形を覚える必要がある。この練習をするためには、すでに刈り終わった羊を使う。マジックなどで毛刈りの順序に従って羊の体に線を描いていく方法がよい。これは初心者が毛刈りの順序を覚える時にも効果がある。また、日本では練習できる羊の数が少ないためこの方法はお勧めである。

・羊が立ち上がる
毛刈り中に羊が立ち上がってしまうと、人聞が体力を消耗するだけでなく、せっかくつながっている毛がバラバラになってしまう。
羊を確実に押さえることができて、はじめて上手に毛刈りができる。
基本は、羊を不安定にしてはいけないとうこと。また、力で押さえてもいけない。
つねに羊の重心がどこにきているか頭に入れておく必要がある。
けっして暴れている羊の前肢や後肢を持つべきではない。

・前肢・後肢が曲がる
前肢、後肢が曲ってやりにくいようなことはよくあることだが、こんな時、肢の先端を持って力まかせに伸ばすのではなく
関節部を押し伸ばさなければいけない。

・疲れてしまう
当然のことである。
羊も疲れている。
とくに初心者の場合は、羊を力で押えるために疲れることが多いと思う。常に羊の重心を念頭におき、羊を不安定な状態にせず毛刈りを行なう必要がある。
バリカンを持つ手が疲れる場合も、やはり必要以上の力で握っている場合が多く、鉛筆をもつように軽く握ることが重要である。

・時聞がかかりすぎる
初心者と熟練者のいちばんの違いは、バリカンが働いている時間である。バリカンが毛を切っている時間はたいした違いはないが、初心者の場合、バリカンが遊んでいる時間が長いのである。そのために、バリカンの刃が熱をもってしまい、あげくの果てには刃についた脂や汚れが焼きついてしまうようなことにもなる。
次の動作に移る時に時間がかかるのであれば、あわてずに一度バリカンのスイッチを切って、体勢を変える余裕が必要である。